ユーフォリア #1

 僕の家が見事に燃えていた。

 それは自分で火をつけたから良いとして、僕はもう一度濱中の家へ自転車で向かった。濱中の家は見事に燃え上がっていた。暗闇を焼き、辺りは異様な熱に包まれていた。橙色の屈強な男達が巨大なホースで必死にガソリンを放っている。僕はこのお祭りの主催者だから、ひとつ踊りでも見せて盛り上げてやろうと思ったそのとき、野次馬の中から僕を呼ぶ声がした。濱中だった。濱中は少し焦げていた。

 放火されたんだ、と濱中は言った。そうか、それは大変だなと僕は言って、自転車を濱中にプレゼントしてあげることにした。右のブレーキが壊れているから、気をつけたほうがいいとアドバイスしてやると、濱中は涙ぐんでありがとうと言った。僕は今にもツイストダンスを踊り始めてしまうところだったけれど、どうにか我慢して、濱中の肩を叩いた。メラメラという音が聞こえる。炎は一層激しくなっていった。最初はライターの、ほんの小さな火花だったのに、と僕は思った。思ったし、声に出した。だけど辺りは騒がしく、誰の耳にも届かなかったし、僕の耳にも聞こえなかった。だから、実際は声に出してなかったのかもしれないと考えた瞬間、僕はもう我慢ができなくなって、濱中と叫んで彼を見てみると、彼のお腹に包丁が突き刺さっていた。それは僕が刺したからで、猛烈に元気になった僕は消防車の荷台に上って、ツイストダンスを披露した。ガソリンの飛沫が顔に当たる。もし目に入ったらあまり良くない気がしたので、4ツイストくらいで誰にも気づかれずそっと降りた。濱中も地面でぐねぐねツイストしていたけれど、僕と同じく誰にも気づかれていなかった。みんなお祭りに夢中だった。濱中、と僕は駆け寄る。濱中は水が飲みたいと言った。よし、すぐに持ってくる、自転車を借りるぞと言って、僕は自転車に飛び乗った。とてもよく身体に馴染み、まるで自分が昔から愛用しているものであるような気がした。おい、この自転車、右のブレーキが壊れているじゃないか、と指摘する。濱中はそんなことより自分のお腹からあふれ出る血液に興味を惹かれているようだった。

 濱中にはそういうところがあった。結局彼は、自分にしか興味がないのだ。僕は彼のそういうところがたまらなく苦手だった。だけど友情を壊すほどの重大な問題ではないし、誰にだってそういうところはある。(もちろん僕にだって!)だから僕は、濱中とこれからも上辺だけの尊くてとても気持ちいい友情を継続していくことを心の中で約束して、すぐに水を持ってくるからと軽いジョークを飛ばして、颯爽と倉橋駅に向かった。自転車はまるで自分のものだった。

 倉橋駅からJR総武本線で千葉駅に向かう。時間に余裕があるので、大阪までは在来線で行くことにした。久谷君の劇団のお芝居には間に合わないけれど、きっとつまらないものだから大丈夫だろう。久谷君とは三年ぶりの再会になる。元気だろうか。昔、僕が彼の恋人とセックスしたことを根に持っていなければいいけれど。

 ホームで電車を待っていると、iPhone5sが鳴った。父からの着信だった。だけど父は殺したはずなので、おかしい。お化けだ、と思った。僕はお化けからの初めての着信に驚いて、iPhone5sを落としてしまった。画面が割れた。液晶からちょっとお化けが滲み出てきた。こんな恐ろしい体験は生まれて初めてだった。液晶から滲み出てくるお化けを止める術はなかったので、仕方なく線路に投げ捨てたところ、ちょうど千葉行きの快速列車が通過した。勝った。僕は8ツイストして、追加でさらに16ツイストしたところに普通列車がやってきて、17ツイスト目と18ツイスト目で華麗に乗り込んだ。車内はがらんどうだった。

 

#2へ続く